野生の個体数は推定わずか約90頭——。日本の対馬にだけ生息する野生のネコ科動物、ツシマヤマネコは、今まさに絶滅の瀬戸際に立っています。知名度ではイリオモテヤマネコに劣るかもしれませんが、絶滅の危機の深刻さでは同等、あるいはそれ以上とも言われる存在です。この記事では、ツシマヤマネコの生態・生息地・保護活動から、実際に会える動物園までを詳しく紹介します。

ツシマヤマネコとは?
学名:Prionailurus bengalensis euptilurus
ツシマヤマネコは、食肉目ネコ科ベンガルヤマネコ属に分類される野生のネコです。ベンガルヤマネコの亜種(極東亜種)にあたり、約10万年前に朝鮮半島と対馬が陸続きだった時代に大陸から渡ってきたと考えられています。
基本データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 分類 | 食肉目 ネコ科 ベンガルヤマネコ属 |
| 体長・体重 | 頭胴長約50〜60cm、体重3〜5kg |
| 寿命 | 野生での正確なデータは不明(飼育下では10年以上の例あり) |
| 分布 | 長崎県対馬のみ(日本国内) |
外見はイエネコ(飼い猫)とほぼ同じサイズで、「ヤマネコ」という名から大型のイメージを持つ方も多いですが、実際はずっと小柄です。全身は茶褐色の地に黒い斑点・縦縞が入り、額の縦縞模様、耳の裏の白い斑紋、太くて長い尻尾が見た目の大きな特徴です。
習性としては、単独で生活する完全肉食性の動物で、ネズミ・モグラ・鳥・カエル・トカゲ・バッタなど多様な獲物を捕食します。活動時間は日の出・日没前後の薄明薄暮性で、夜間に活発に動きます。繁殖期は冬から春にかけてで、オスは普段のなわばり(メスで1〜2km²程度)を繁殖期に7〜8倍に広げて行動することが知られています。
ツシマヤマネコは水を怖がらず、夏には自ら水浴びをすることがあります。一般的なネコが水を嫌うイメージとは大きく異なる、野生ならではの習性です。飼育下でも水辺での行動が確認されています。
絶滅危惧のステータス
| 評価機関 | 分類カテゴリ | ステータス略称 | 更新年 |
|---|---|---|---|
| IUCN レッドリスト | Least Concern(低懸念) ※亜種全体ではなく種(ベンガルヤマネコ)として評価 | LC | 2015年 |
| 環境省 レッドリスト | 絶滅危惧IA類 | CR | 2020年 |
| 長崎県版レッドデータブック | 絶滅危惧IA類 | CR | ― |
※IUCNはツシマヤマネコを亜種として独立評価していないため、ベンガルヤマネコ全体(Prionailurus bengalensis)としての評価を記載しています。日本固有の地域個体群としての深刻さは、環境省のカテゴリが実態を示しています。
環境省の絶滅危惧IA類(CR)は、絶滅の危険性が最も高いカテゴリです。野生での推定個体数は約80〜110頭(※統計的平均値では約90頭、2010年代の調査データによる推定値)とされており、個体数は1960年代の250〜300頭から大幅に減少しています。近年、かつて生息が確認されていなかった対馬南部(下島)でも確認地域が増えており、わずかながら回復の兆しも見られます。

どこに住んでいる?
ツシマヤマネコは、日本では長崎県対馬市(対馬島)にのみ生息しています。対馬は九州と朝鮮半島の間に位置する島で、南北約82km・面積約700km²の細長い島です。
生息環境は、深い原生林というよりも里山に近い環境を好むのが特徴です。標高の低い谷間や林縁部、落葉広葉樹林、コナラ林、ススキ草原、水田や農道周辺など、人の暮らしの近くで暮らしています。現地では、農道や田んぼのあぜ道を歩く姿が目撃されることも珍しくありません。
かつては対馬全島(上島・下島)に広く生息していましたが、現在の主要な生息域は主に上島(対馬北部)です。下島では長らく確認が途絶えていましたが、2007年以降に再確認され、近年は確認地域が増加しています。
亜種全体の分布域としては、モンゴル・中国北部・東シベリア・朝鮮半島などに同じ亜種(アムールヤマネコ)が生息しています。

ツシマヤマネコに会えるスポット
日本国内
2025年2月時点で、全国11施設(動物園等)で合計35頭のツシマヤマネコが飼育されています(対馬野生生物保護センター調べ)。以下は主な飼育展示施設です。
- 東京都井の頭自然文化園(東京都武蔵野市)― 都内でツシマヤマネコに会える数少ない施設のひとつ
- よこはま動物園ズーラシア(神奈川県横浜市)― 日本の山里ゾーンで飼育。人工授精による繁殖成功実績あり(2021年)
- 名古屋市東山動植物園(愛知県名古屋市)― 繁殖拠点施設として積極的に取り組む
- 京都市動物園(京都府京都市)― 繁殖活動にも参加
- 福岡市動物園(福岡県福岡市)― 飼育下繁殖の先駆けとして2000年に初繁殖に成功した記念すべき施設
- 西海国立公園九十九島動植物園 森きらら(長崎県佐世保市)― 繁殖にも取り組む
- 那須どうぶつ王国(栃木県那須町)― 展示・繁殖に参加
※上記のほか、富山市ファミリーパーク(富山県)、沖縄こどもの国(沖縄県沖縄市)でも飼育されています。最新の飼育状況は各施設の公式サイトでご確認ください。
また、対馬現地では対馬野生生物保護センター(長崎県対馬市上県町、入館無料)で実際のツシマヤマネコを見学できるほか、生態・保護活動についての展示も充実しています。
海外・野生観察
- 朝鮮半島・韓国(同亜種であるアムールヤマネコが分布)― ただし野生個体の観察は容易ではありません
- 対馬グリーン・ブルーツーリズム協会(長崎県対馬市)― 野生のツシマヤマネコを探す「ヤマネコ探索ニャイトツアー」を年数回開催(※国内ですが野生観察として紹介)
なぜ絶滅の危機に?
ツシマヤマネコの個体数が激減した背景には、複数の脅威が絡み合っています。
1. 生息環境の悪化
高度経済成長期以降の道路建設・開発・農地の荒廃が進み、かつての里山環境が失われました。また近年はシカの増加による下層植生への食害も深刻で、ツシマヤマネコの餌となるネズミ類の生息環境を破壊しています。道路による生息地の分断も、行動圏の縮小や交通事故につながっています。
2. 交通事故・錯誤捕獲
道路を渡る際の車との衝突事故は今も深刻な問題です。また、シカやイノシシ用に設置されたくくり罠に誤って捕まってしまう「錯誤捕獲」も毎年発生しています。
3. イエネコからの感染症
1996年、ツシマヤマネコでFIV(ネコ免疫不全症候群ウイルス、いわゆる「ネコエイズ」)の感染個体が発見されました。感染源はイエネコ(野良猫・放し飼い猫)との接触と推定されています。ネコ白血病ウイルスも同様のリスクをはらんでいます。
保護活動として、環境省は1997年に対馬野生生物保護センターを設立し、生態調査・保護・普及啓発を継続しています。2024年4月には、飼育下繁殖個体を自然に近い環境で訓練する「ツシマヤマネコ野生順化ステーション」からの初の放獣が実現しました(残念ながら当該個体は短期間で死亡が確認されましたが、技術開発は続いています)。
読者にできることとして、対馬野生生物保護センターや「NPO法人どうぶつたちの病院」への寄付・支援、あるいは動物園でのツシマヤマネコ関連イベントへの参加を通じて、保護活動を身近に支えることができます。
まとめ
ツシマヤマネコは、日本の対馬という小さな島に生き残る、推定約90頭の野生のネコです。環境省の絶滅危惧IA類(最高危惧カテゴリ)に指定されており、生息環境の悪化・交通事故・感染症など複合的な脅威にさらされています。一方で、全国9つの動物園が飼育下繁殖に取り組み、野生順化ステーションによる野生復帰の試みも始まっています。その存在を「知る」ことが、保護への第一歩です。他の絶滅危惧種についてはこちらもご覧ください。
参考情報・出典
本記事の作成にあたり、以下の情報源を参照しました。
情報取得日:2025年2月22日
※本記事の個体数データは調査手法(痕跡調査による密度推定)の性質上、推定値です。最新の正確な情報は環境省および対馬野生生物保護センターの公式発表をご参照ください。

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